南日本新聞  H13 4/15
「有機農業で自然と共生」9年かけ検証へ
  −鹿大教授と地元農家ら/溝辺・網掛川流域

 鹿児島大学農学部の萬田正治教授と県環境技術協会、溝辺町の有機農業者団体などは13日、「網掛川流域環境共生プロジェクト」をスタートさせた。一定地域で有機農業を行い周辺環境への影響を調査、自然と共生し経済性の高い地域循環型農業のあり方を探る。萬田教授は「全国的にも例のない試み。鹿児島型環境共生モデルとして成果を発信したい」と話している。
 溝辺町竹子の網掛川源流にある約40アールの水田が調査対象。同町ステビア栽培米生産組合(岩沢豊会長、9人)がアイガモや土着菌生物、ステビアなど組み合わせて完全無農薬・有機栽培を行い、稲の生育状況や周辺環境・生物への影響など9年間かけて調べる。
 同時に有機米の学校給食利用など地域内消費を働きかけ、残留農薬がない稲わらやモミ殻の商品化も図るなど生産者の安定的な所得向上を目指す。学校教育の教材としても活用したいとしている。
 鹿児島大学は97年度から有機農業を軸にした全学合同研究プロジェクト「大地・食・人間の健康を保全する環境革命への試行」を進めており、同プロジェクトの一環として取り組みたい考え。
 萬田教授は「有機農業の環境復元効果を実証するには上流水系の影響を受けない一定規模の水田が必要で、地元の協力を得られたことは大きい。成果を確認しながら網掛川下流へ段階的に有機農業の輪を広げ、流域全体の環境保全に役立てたい」。県環境技術協会の田中健次郎調査部長は「自然の復元に伴い変化する生物データは環境レベルを計る新たな指標になる」と話した。

南日本新聞  H13 4/21
網掛川源流で 事前環境調査/共生プロジェクト
    

 鹿児島県環境技術協会のメンバーら6人が19日、溝辺町竹子の網掛川源流にある水田周辺の環境調査を行った。鹿児島大学農学部の萬田正治教授と同町有機農業者団体などが計画中の「網掛川流域環境共生プロジェクト」の事前調査の一環。
 メンバーらは捕虫網など持参し、プロジェクトを実施する水田の周辺約1キロにわたって昆虫や植物、鳥などの生息状況をおおまかに調査した。結果を踏まえ5月中旬から本格調査に入り、有機農業の環境への影響を計る指標となる動植物の選定を急ぐ。
 調査に当たった同協会環境生物課の塩谷克典主査は「研究対象となる水田周辺は護岸が整備されておらず、自然との接続関係がきわめて良好。有機農業が周辺にどのような変化を及ぼすか調べるモデル地域として期待できる」と話した。
 同プロジェクトはアイガモや土着菌、ステビアなどを利用した有機農法・無農薬栽培を軸に、流域全体の環境復元を図ろうというもの。


鹿児島新報 6月22日


溝辺町竹子の上宮川内地区で、網掛川流域環境共生プロジェクト
 唱歌「ふるさと」にある里地・里山の環境復元を目指し、鹿児島大学(田中弘允学長)と姶良郡溝辺町のステビア栽培米生産組合(岩澤豊会長)などがスタートさせた「網掛川流域環境共生プロジェクト」は21日、地元の地域づくりグループや園児、児童らも参加し、同町竹子上宮川内地区の40eの実験田んぼに150羽のアイガモを放った。同プロジェクトは、無農薬・循環型農業により環境復元を目指すとともに、安全な農産物の地域流通を促進し、農家の経営と生活の安定を図るもの。同町の竹子小学校もメンバーに加わっており、児童が地域の自然環境と農業の大切さを学ぶ場ともなる。
 この日の放鳥会には、同町の照明保育園の園児20人と竹子小学校5年生9人が参加し、竹子小の壱岐のぞみさんが「米作りに歩き回る姿を見に来ますので、アイガモさん、がんばって」とあいさつ。園児らは、小さなアイガモを抱きかかえ、田んぼに放していた。
 萬田正治・鹿大副学長は「戦後の農業は、農薬の使用で生産性は上がったが、自然が消えていった。10年前から研究を続けているアイガモ農法を実践し、自然環境を取り戻したい」と話した。


                    
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南日本新聞 6月22日

アイガモ135羽放鳥/溝辺・網掛川プロジェクト
  −環境復元へ実験開始
 溝辺町竹子で鹿児島大学と地元の農業者グループなどが取り組む「網掛川流域環境共生プロジェクト」実証水田に21日、実験の主役となるアイガモ135羽が放たれた。有機農業を軸にした流域の環境復元への試みがスタートした。
放鳥にはプロジェクトメンバーのほか近くの竹子小児童らも参加。生後10日のアイガモのひなを1羽1羽手のひらで包み「頑張って」と声をかけながら水田に放した。5年生の壹岐のぞみさん(10)は「アイガモで自然に優しい農業ができると聞いた。大勢の人が取り組めば地球が緑でいっぱいになるのに」。プロジェクトを指揮する鹿児島大学の萬田正治副学長は「有機農業としてのアイガモ農法をさらに一歩進め、自然を取り戻そうという取り組みがいよいよ始まった。この情景を夢見て、30年間学問に取り組んできた」と、水田を駆け回るアイガモたちを感慨深げに見守った。
 アイガモは稲穂が着く8月ごろまで水田内の雑草や害虫を捕食。そのふんは肥料になる。また動き回ってイネに接触することが中耕や水のかくはん、茎を太くするなどの効果を与えるという。
同プロジェクトは鹿児島大学が全学合同研究として取り組む「大地・食・人間の健康を保全する環境革命への試行」の一環。同日は萬田副学長が「暮らしと環境を守る合鴨農法」と題して講演。プロジェクトの今後の取り組みについて説明会も開かれた。


                  

MBC放送 6月22日
網掛川環境共生プロジェクト[06/22 12:06]
姶良郡溝辺町で今、全国初の取り組みとして鹿児島大学と地域が協力して、無農薬農業で昔の自然環境を取り戻す試験が行われていますが、きのう水田にアイガモが放されました。これは、溝辺町の網掛川源流域にあたる竹子の棚田40アールの水田を使って、鹿児島大学の農学部が中心になって研究してきた、環境保全型農業の成果を実証しようというものです。このプロジェクトには県と町や地元の農家など12の団体が参加しており、唱歌「故郷」に出てくる自然環境を再現することを目標にしています。きのうは地元の児童と園児らも参加して、生後1週間ほどのアイガモのヒナ150羽が放されました。このアイガモ農法を中心とした完全無農薬の取り組みは第一段階として3年間続けられ、10年間で元の自然を取り戻す計画です。

南日本新聞  平成13年8月30日
内之浦−溝辺、共生プロジェクトで情報交換
 −循環社会広げよう

 本年度から循環型社会の形成を目指す「共生プロジェクト」をそれぞれに始めた溝辺町と内之浦町の住民が、内之浦町の叶岳ふれあいの森で初の交流会を開いた。参加者らは「点の活動がこれで線になる。これからも互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、情報交換をしながら、循環型社会を目指す動きを面に広げていこう」と誓い合った。
 呼び掛けたのは、内之浦町上北地区で内之浦共生プロジェクトを始めた非政府組織(NGO)の財団法人カラモジア。28日夜、同地区の住民16人と、溝辺町から約3時間かけてやってきた網掛川流域共生プロジェクトのメンバー8人が参加した。
 冒頭、カラモジアの加藤憲一理事長が「九州に多い中山間地域の振興は、共生プロジェクトがカギを握っている。2つのプロジェクトが互いにスクラムを組みながら頑張っていこう」とあいさつ。持ち寄った米や野菜、果実、魚などを食べ比べながら、ざっくばらんに意見交換をした。
 溝辺町の参加者の中には「内之浦に来るのは初めて」という人も数人。網掛川流域共生プロジェクト事務局の山口紀史さん(35)は「内之浦にもプロジェクトができたことで、こちらも頑張るぞ、と励みになった。思いを共有できる仲間が県内にできてうれしい」と話した。
 9月7日に網掛川流域プロジェクトが開く第2回プロジェクト委員会には内之浦のメンバーが参加する。


鹿児島新報 H13 9/5

▼精米用の迫太郎(さこんたろう)を松の木で製作中

 姶良郡溝辺町の「網掛川流域環境共生プロジェクト」で中心となって活動しているステビア栽培米生産組合の8人が、最近ではあまり見られなくなった精米するための道具、迫太郎(さこんたろう)を、クロマツの木から製作している。

 同組合のメンバーらが、7月に宮崎県えびの市に実際に設置されている迫太郎を見学し、溝辺町でも製作することを決めた。クロマツは全長4b、直径約55a。約1dの重さがあり、水を受ける部分は約50g入る。3日間の作業で7割方完成し、3日には5人のメンバーが集まり作業を続けた。
 責任者の久木田貞洋さんは「プロジェクトの趣旨である昔の良き時代の再現を目指した。今月中には設置したい」と意気込んでおり、技術的な部分を担当した外山信男さんは「現物を見て、寸法を測り作った。まだ、調整が必要」と話した。石臼は、近くの農家から提供されたものがあり、迫太郎が実験田んぼに設置されれば、10月初めに刈り取りが始まるもみは、精米機械を使わず、昔ながらの迫太郎と石臼を使用し精米する。
 同組合の岩澤豊代表は「プロジェクトの田んぼを拠点として、癒しの場、自然とのふれあいの場にしたい。環境を大切にし、昔の情景を復元するには、それなりの努力が必要」と話していた。
 田んぼで活躍していたアイガモたちは、8月末までに田んぼから引き上げられた。7日には、現地検討会と第2回網掛川流域環境共生プロジェクト委員会が開かれ、プロジェクトの中間報告などを行う。

鹿児島新報 H13 9/9

網掛川流域環境共生プロジェクト、中間報告

 里地・里山の環境復元を目指し、鹿児島大学と姶良郡溝辺町のステビア栽培米生産組合などが取り組んでいる「網掛川流域環境共生プロジェクト」の第2回委員会が7日、同町竹子の竹寺であり、プロジェクト委員らが、栽培管理、環境調査などの中間報告を行った。

 委員会では、県環境技術協会による水田内の生物調査結果、鹿大農学部によるアイガモ農法の技術的効果などが報告された。プロジェクト委員長の萬田正治・鹿児島大学副学長は「収穫後の3回目の委員会で、具体的な分析・検討を行い、来年に向けたプロジェクトを進めていきたい」とした。
 続いて、昔ながらの水力を使った精米用道具、迫太郎(さこんたろう)製作プロジェクト、ふるさと文化ロードプロジェクトなどの今後の取り組みが発表された。ふるさと文化ロードは、同町の佐藤医院院長で歌人の佐藤山人さんが、実験田んぼのアイガモたちの活動を詠んだ短歌の看板を、付近の道路に設置しようというもの。佐藤さんは自作の短歌12点を発表した。
 また、肝属郡内之浦町で環境共生プロジェクトに取り組む、財団法人カラモジアの加藤憲一理事長が「21世紀型コミュニティづくりへの挑戦」のテーマで基調講演を行った。地域交流会では、宮崎県えびの市と内之浦町の代表者が現在の取り組みについて説明し、意見交換を行った。


鹿児島新報 11月3日

▼溝辺町環境共生プロジェクト、水力精米機

 鹿児島大学などが取り組む、姶良郡溝辺町竹子の網掛川流域環境共生プロジェクトの実証水田で10月30日、水力で動く昔ながらの精米機「迫太郎(さこんたろう)」の打ち始め式があり、製作した町ステビア栽培米生産組合(岩澤豊代表)のメンバーや溝辺小学校4年生約40人の児童らが完成を祝った。

 同生産組合の久木田貞洋さんを中心に、8月末からクロマツの木を使って製作を始めた。実証水田の中に据え付けた後にも、小屋作りや迫太郎の軸受けの部分などの調整を続け、迫太郎の片方が打ち下ろす部分に大きな石を置き完成した。
 打ち始め式では、同プロジェクト委員長の萬田正治・鹿大副学長が「網掛川のきれいな水と、水力を使った迫太郎の精米で、自然の力で作った究極の米が出来上がった」とあいさつ。テープカットの後、水をいっぱいにして動き出す迫太郎の様子を、子どもたちは興味深そうに見守っていた。迫太郎は、3`の米を約6時間かけて精米する。
 岩澤豊代表は「1年目は、棚田の管理の難しさを教えられた。地域のみんなの協力で迫太郎が完成し、来年からは収量を上げて経済的な面にも力を入れたい」と話した。同プロジェクトの「ふるさと収穫祭」が、11日午前10時から実験田んぼ近くの宮川内池公園で開かれ、おいしい米の試食会、野外コンサートなどがある。

「迫ん太郎」お目見え/溝辺・有機農業プロジェクト
  −米つく音が心いやす

 溝辺町竹子の鹿児島大学有機農業プロジェクト実験ほ場に、水の力を利用した自動精米器「迫ん太郎」がお目見えした。ギギギギーッドスン−と、リズミカルに繰り返す米つきの音が、のどかな田園風景にひと味添えている。
 迫ん太郎は直径55センチ、長さ4メートルのクロマツ製。一方の端に穴が掘ってあり、水路から引いた水がここにたまると、ししおどしの要領で丸太が上下、もう片方に付けたきねが石うすに入れたもみをつく仕組みだ。
 1回の上下にかかる時間は約23秒。気の長い話だが、機械づきのように熱が加わらない分、味が落ちないらしい。同所の迫ん太郎はモウソウ竹を組んだ庵(いおり)に収められ、一層趣を深めている。
 10月30日あった打ち始め式には、プロジェクト代表の萬田正治鹿児島大学副学長らが駆けつけたほか、同地区に遠足中の溝辺小児童らも立ち寄り完成を祝った。
 萬田代表は「究極のおいしいコメをつくりたいと願う竹子の人々の気持ちが、迫ん太郎の大きさに表れているようだ」。
 製作に当たった久木田貞洋さん(61)は「バランスの調整に苦労したが、百パーセント以上の出来。きしみ音が水の流れと一緒になって、心をいやしてくれる。この音を聞きながら飲む焼酎は最高ですよ」と満足顔だった。

環境守る心に感激・ベトナム訪問団/溝辺
 H13.12.3 −有機農法など視察

 ベトナムの農業関係者9人が2泊3日の日程で溝辺町を訪れ、農村の地域おこしなどについて学んだ。アイガモ農法で環境再生に取り組む同地区の実験田など見学した一行は、「発展とともに環境を守ろうと努力する日本人の心を実感した」と感激していた。
 9人はハノイ北部の地方都市で農業政策や農村開発に携わる公務員。国際協力事業団(JICA)の無償技術協力の一つ「ベトナム農村開発コース研修」を利用して10月中旬から約2カ月間、九州各県を訪問し、日本の文化や農業の実態について学んでいる。
 11月23日、溝辺町を訪れた一行は、同町の畜産農家やかん水施設など見学。鹿児島大学などが取り組む同町竹子の有機農業プロジェクト実験田では、栽培成果や地域への波及効果などについて地元メンバーから説明を受けた。
 同町をプログラムに組み入れた理由についてJICA職員の渡辺雅夫さん(34)は「ベトナムはトップダウンで政策が進む国。地元農家が頑張って情報を発信し、地域を活性化させているボトムアップの実例を紹介したかった」と話す。
 ハノイから約300キロ離れた山岳都市で農業開発を担当するグエン・バン・ビンさん(32)は「日本の都市部の近代化は、新聞や雑誌で事前勉強してきた通りだが、一方で農村の自然を残すために努力する日本人の姿が印象的だった。環境問題はベトナムも同じ。今回学んだことを帰国後の仕事に役立てたい」と話していた。

写真 昔ながらの精米機・迫ん太郎に「ベトナムにもある」と驚く研修生ら

  2001/12/02

■二つの情景 近ごろの取材で強く印象に残ったシーンから。
 アイガモ農法で環境復元を図る溝辺町竹子の「網掛川流域環境共生プロジェクト」実験田を、ベトナムの農業関係者9人が視察に訪れた。“うさぎ追いしかの山”を後世に残す−その思いを形にしたいと地元メンバーが復元した水力精米機・迫ん太郎を見た一行は「ベトナムにも同じものがある」と大喜び。
 グエン・バン・ビンさん(32)は、棚田まで故郷と似ていると感激し、その場で迫ん太郎のリズムを織り込んだ故国の歌を披露し「日本の近代都市は想像通りだったが、豊かな自然環境もしっかり守ろうとする日本人の心に触れた」。まだまだ先の長いプロジェクトだが、メンバーにとっても励みになる出会いだったことだろう。
 続いて蒲生町であった秋祭りの会場の一こま。女性の会のメンバーが来場者の持ち寄るごみを黙々と仕分けしていた。容器や割りばしにこびりついた食べかすを、いとわず素手で取り除き、バケツの水で丁寧に汚れを落としてリサイクルへとまわす。「ふるさとのため、できることからやろう」。環境問題を勉強してきた女性の会が出した結論だ。
 それぞれの町に生まれた点が線となり、面へと広がる姿を思い浮かべる。グエンさんの言葉に、胸を張って「そうでしょう。これが鹿児島モデルです」と答えられる日が待ち遠しくなってくる。
(加治木支局・西伸樹)